オール読物 (続)

『オール読物3月号』直木賞選評とそれに対するコメントの続きです。


さあ、あの先生から始めましょうか。


渡辺淳一氏:「わたしは不満である」。・・・ストレート過ぎて打ち返せません。といっても渡辺先生の「人間を描く」重視で
作品を読んでいるという点になんら異論はありません。ただし「ひたすら人間を描くことと、事件の謎ときが渾然と一つに
溶け合っている」と評した平岩先生とは結論が正反対となったようです。「近年、推理小説直木賞へのバリアが低くなり
つつあることの、一つの証左といえなくもない」。バリア決壊ということですね。でもそれほどひどい事は書かれていない
ようです。決まっちゃった後では格好悪いですからね。
林真理子氏:『電車男』を引き合いに出され「そのさらに昇華したもの」との評価。ありがとうござ・・・。先生の時勢を
見極める力、素晴らしいですね。
津本陽氏:これまでの候補作は「内容が軽いのでどうかな」と思っていたが今回は「隙のない、堅固な構築であるので」
との評価。ありがとうございます。関連してこれまでの候補作は
 「秘密」(文藝春秋社・1998/09/10刊行) ・・・これは先生には「軽い」かも。
 「白夜行」(集英社・1999/08/05刊行)・・・これを「軽い」といわれると何とも 。
 「片想い」(文藝春秋社・2001/03/30刊行) ・・・先生向きじゃないですね。
 「手紙」(毎日新聞社・2003/03/21刊行) ・・・タッチが「軽い」ですか?
 「幻夜」(集英社・2004/01/26刊行) ・・・どのような選評だったのか読みたいです。
「こんなものが書けるのなら、もっと早く眼光するどくきびしい顔を見せてくれたらよかったと思った」との評。どうも
先生の作風からして、「宿敵を描いた作品」として評価されたような気がします。
北方謙三氏:日本推理作家協会元理事長として、まさに「背水の陣」で臨んだ選考会だったのですね。誠にありがとう
ございました。
宮城谷昌光氏:「力感の差である」今回に関しては公平に見て、そのような部分があったとも思われます。的確な分析
ありがとうございます。
井上ひさし氏:伊坂幸太郎氏とともに受賞作として推すことを前提に、問題点を指摘しながらも「作者の力量は疑いも
なく十分」で「X」に絞られたとの評。ありがとうございます。選考会の力関係でねじ伏せられて来た、本来されるべき
小説家の力量の評価がされたのだと感じました。


様々な意見がありましたが、結果として8対1でまさに「勝てて良かった!」(東野氏)という感じでした。過去候補作
がいずれも直木賞候補作としては妥当な作風にもかかわらず落選してきた東野氏にとって、本道としての「ミステリ」
推理小説」である「X」で直木賞を受賞するという形になったことは「とてもよいタイミングの受賞」(林氏選評)
であったと思います。


でも今回過去候補作を見直してみて、『時生』『殺人の門』『さまよう刃』『嘘をもうひとつだけ』なんかも候補作
になっても良かったのではと、ファンとしては今更ながら思うのであります。


『オール読物』の直木賞選評を読むなんて機会はまずないので、最後に次回直木賞ですが、恒川光太郎氏に決まり
のようですね!