『天啓の殺意』読了

『天啓の殺意』読了。


まず最初の感想(3/16)の訂正から。
>82年の作品としても「古さ」が気になって、なかなか読み進めません。
は完全な読み違いでした。


あらすじは以下の通り。


あまり売れていないミステリ作家から持ち込まれた「リレー小説」の企画。その解決編を書きに温泉地を訪れた作者が失踪。その謎を
追った編集者は、「リレー小説」の内容が、過去に発生した殺人事件をトレースしたものだった事を知る。作品から犯人を推理した
編集者が調査を進めるうちに関係者が次々に殺されていく。編集者は、その真相を「犯人」に突きつけるが・・・。


以下は感想です。
■■■■■■■■■■■■ 以下、次の■までネタバレとなります ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■

>この後に「何か」あるのだろうと予想
これは当然「叙述トリック」を思い浮かべていたのですが、そのとおりでした。

「リレー小説として持ち込まれた作品が実は、復讐の手段として書かれたものだった」というのが、この作品の真相となります。そして、その作品に原稿を渡された編集者が登場して作品内の謎を追うという形式が取られています。作品の作者は、事件の犯人と考えていた人間に恨みを抱いていて、それに復讐するために編集者を利用した。しかし実際の事件の犯人は、その編集者だったため「作品」を破棄せず、真相を隠蔽するために犯罪を犯していった。


上記のようなプロットを「叙述トリック」を用いたことにより、読者は真相を掴むのが一層難しくなりました。そこで整理すると、この『天啓の殺意』の構造は以下のようになります。


1.プロローグ
 柳生から花積への企画持込から原稿引き渡しまで。
2.事件
 柳生の原稿(神永頼三の視点)
3.追及
 柳生の原稿(尾道の死までを花積の視点で描く:橋井真弓は週刊誌記者)
4.捜査
 尾道の死(警察視点:橋井真弓は推理世界編集者)
5.真相
 犯人に対する追及(探偵役視点)
6.エピローグ
 犯人の独白


私が読み始めで「古い」と感じたのは1〜3で、主にそれは描写の部分だったため、完全に「地の文」として評価しているので「大勘違い」でした。


こんな状態なので、いつもはすっかり騙されて「おもしろく」感じるはずなのですが、今回はそうではありませんでした。
まず「あまり売れていない作家」が持ち込んだ「リレー小説」という企画を採用する編集者はいないだろ、という点で違和感を感じました。なおかつ「有名なタレント作家にその解決編作者として指定」なんて、そんな図々しい小説家もいないよな、という点。
この起点で既に持った印象が読み始め感想になってしまいました。


次に編集者が「(作中の)作家が思ったとおりに行動する」ことがなぜ予想することができるのかが不明。ラストにおいて、実はこの作家は「犯人が編集者であることを知っていて」原稿を編集者に依頼したことを、編集者に対する手紙で明らかにしていますが、強引な辻褄合わせに思えてしまいました。それを読者に予見させる手がかりがどこかにあったでしょうか?


最初の悪い印象が、作品全体の評価となってしまいました。文庫版の作者あとがきを読むと誠実な方という印象なので申し訳ないのですが、正直なところ次を読むのはだいぶ先だろうなと思います。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■